老犬の目が見えないときに考えられる病気と生活の工夫を獣医師が解説
愛犬が年を重ねて、黒目が白濁してきたように見えると、目が見えづらくなっていないか心配ですよね。
「最近よく物にぶつかる」
「おもちゃやフードの位置が分かりにくそう」
「小さな段差にもよくつまずく」
そんな愛犬の様子に気づいてはいませんか?
もしかするとそれは、目が見えないサインかもしれません。
実は、老犬の目が見えなくなる背景には、さまざまな目の病気が隠れています。
今回は、老犬の目が見えなくなる主な原因と考えられる病気、そして日常生活でできる工夫を獣医師が解説します。
老犬の目が見えなくなる主な原因

老犬の目が見えなくなる原因はさまざまですが、「加齢による変化」と「病気による障害」のふたつが主な大きな要因です。
①加齢による視覚機能の低下

人間と同じように、犬も年齢とともに目の働きが衰えます。
光の感じ方が鈍くなったり、近くが見えづらくなったりするため、暗い場所で目が見えづらい、小さな段差でもつまずくといった様子が見られるようになります。
このように、老犬の目が見えなくなることは必ずしも病気とは限りません。
②病気による失明

老犬ではさまざまな目の病気により、視覚そのものが障害されることで目が見えなくなることもあります。
これらは進行すると完全に視覚を失うおそれがあるため、早期発見と早期治療が大切です。
老犬の目が見えなくなる主な病気

では、具体的にどのような病気が原因で、老犬の目が見えなくなるのでしょうか?
代表的な病気をそれぞれ詳しく見ていきましょう。
①白内障

白内障は、水晶体が白く濁ることで目が見えなくなる病気です。
老犬では加齢とともに起こることが一般的ですが、他の目の病気やホルモンの病気などでも起こります。
白内障の症状としては、目が白く見えるほか、炎症を起こして目やにが出る、目を痛がるといった症状が出ることがあります。
白内障がさらに進行すると両目とも白濁してしまい、目が見えなくなることが一般的です。
白内障の治療には、初期では点眼による進行を抑制する治療が、進行した場合では手術で水晶体を取り除く治療があります。
ただし、手術による治療には全身麻酔が必要なため、シニア犬では慎重な判断が必要です。
②進行性網膜萎縮(PRA)

進行性網膜萎縮は、遺伝的な要因で網膜の細胞が徐々に機能を失う病気です。
初期症状は、暗いところで見えにくくなる「夜盲」から始まり、数か月〜数年かけて目が見えなくなります。
進行性網膜萎縮は、ミニチュアダックスフンドでの発症が多く、残念ながら有効な治療法は確立されていません。
進行を完全に止めることは難しいものの、抗酸化サプリメントであるビタミンEやアスタキサンチンなどで、網膜へのダメージをケアする方法があります。
③緑内障

緑内障は、何らかの原因で眼圧(眼球内の圧力)が高くなり、視神経を圧迫して網膜の細胞がダメージを受ける病気です。
緑内障の症状としては、
- 目が赤くなる
- 目をしばしばさせる
- 目を気にしてこする
- 元気がなくなる
- 目が飛び出る
- 目やにが大量に出る
といったものがよく見られます。
緑内障は、放置すると短期間で目が見えなくなる可能性がある病気です。
上記のような症状が見られたときは、早めに動物病院を受診しましょう。
緑内障の治療は、眼圧を下げる点眼薬や内服薬で行います。
進行した場合では、失明した目を摘出する手術を行うこともあります。
| 緑内障の原因とは?
緑内障は、眼房水(目の中を満たす液体)の出口が何かしらの要因で閉塞することで起こります。
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④ぶどう膜炎

ぶどう膜炎は、眼球の内側にある「ぶどう膜」に炎症が起こる病気です。
ぶどう膜炎の原因はさまざまなものが知られています。
具体的には、
- 感染症
- 外傷
- 角膜潰瘍
- 白内障
- ドライアイ
- 免疫の異常
- 腫瘍
などが挙げられます。
ぶどう膜は激しい炎症から痛みを起こし、放置すると緑内障や失明につながることもあるため、非常に注意が必要です。
| ぶどう膜とは?
ぶどう膜は、虹彩、毛様体、脈絡膜の総称です。 |
⑤網膜剥離

網膜剥離は、光の刺激を受け取る「網膜」が眼球の内壁から剥がれてしまうことで目が見えなくなる病気です。
網膜剝離の原因として、
- 高血圧
- 外傷
- ぶどう膜炎
- 白内障
- 緑内障
- 腫瘍
などが挙げられます。
| 高血圧とは?
高血圧は、血圧が正常よりも高い状態を指し、犬でもよく見られる病気です。 |
⑥突発性後天性網膜変性症(SARDS)

突発性後天性網膜変性症は、突然目が見えなくなる原因不明の病気です。
好発犬種として、ミニチュアシュナウザーやミニチュアダックスフンドが知られていますが、すべての犬種で発生します。
私自身も、ミックス犬やそのほかの犬種でも経験しています。
一般的には、肥満傾向のある避妊済の雌で、かつ年齢は中高齢での発症が多いです。
突発性後天性網膜変性症では短期間で完全失明することが多く、治療法は確立されていません。
視力は戻らないものの、自宅での適切なサポートを行ってあげることで快適に暮らすことが可能です。
目が見えない老犬の行動サイン

ここまでは、老犬の目が見えなくなる原因について解説しました。
では、老犬の目が見えなくなったら、どのようなサインが見られるのでしょうか?
代表的な症状としては、以下のような行動の変化が挙げられます。
- 家具や壁にぶつかるようになった
- 散歩中に歩くスピードが遅くなった
- トイレの位置を間違えることが増えた
- 人や他の犬を怖がって吠えるようになった
- 食事や水の場所を探すような仕草をするようになった
これらの行動は「わがまま」ではなく、見えづらさからくる不安のサインですので、見過ごさないようにすることが大切です。
目が見えない老犬との暮らし方

もし、老犬の目が見えなくなってしまった場合は、日常生活においてどのような点に気を付ければよいのでしょうか?
犬は視覚を失っても、嗅覚や聴覚が優れているため、環境を工夫すれば安心して生活することができます。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
①家具の配置を変えない

犬は目が見えなくなると記憶を頼りに動くようになるため、家具の位置を変えてしまうと混乱してしまいます。
模様替えや物の移動は最小限にしてあげましょう。
②段差をなくす・滑りにくい床にする

目が見えなくなると、小さな段差でもつまずき、転倒によるケガのリスクにつながります。
滑りにくいようマットを敷く、ベッドやトイレの周りに段差を作らないといった工夫をしてあげるとよいでしょう。
③水やトイレの場所を一定に保つ

家具と同様に、飲水やトイレの場所が変わると探せずに失敗してしまいます。
できる限り常に同じ位置に置いてあげましょう。
④不安を減らす接し方を心がける

老犬の目が見えなくなると、急に触れたり、大きな音を立てたりすることにとても驚いてしまいます。
声をかけながらゆっくりと近づき、犬が安心できるよう接してあげましょう。
まとめ|不安を減らす工夫で老犬の安心を守る

老犬の「目が見えない」という変化は、犬にとってもとても不安な状況です。
最初はその不安から、生活が上手くいかなくなることも多いと思います。
しかし、目が見えなくなっても愛犬の生活の質を保ってあげることは十分可能です。
そのためには、
- 原因を早めに特定し、治療やケアを行う
- 家の中を安全でわかりやすい環境に整える
- 声かけや触れ合いで安心を伝える
といったことが大切です。
焦らず、少しずつ環境を整えながら、寄り添う時間を大切にしてあげましょう。


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