老犬がけいれんを起こす原因は?考えられる病気と受診の目安【獣医師解説】
老犬が突然、体を硬直させたり、足をバタバタさせたりする「痙攣(けいれん)」を起こすと、とても心配になりますよね。
「何か病気にかかってしまったのか?」
「早く動物病院を受診した方がいいのか?」
「このまま命に関わるのでは?」
と不安になる方も多いでしょう。
この記事では、老犬のけいれんの主な原因と考えられる病気、受診の目安やその対応方法について獣医師が解説します。
最後までお読みいただき、もし愛犬にけいれんが起きたときの対処法について理解を深めましょう。
老犬がけいれんを起こす主な原因

けいれんとは、脳から筋肉へ送られる神経の伝達が一時的に乱れることで、体の一部または全身が無意識に動く症状です。
特に老犬では、脳や内臓の病気でけいれんを起こすことが多く、さまざまな病気が原因として考えられます。
主な原因としては、次のようなものが挙げられます。
- 脳の異常(てんかん、脳腫瘍、脳炎など)
- 代謝の異常(低血糖、尿毒症、高アンモニア血症など)
- 循環器の異常(心臓疾患など)
ここからは、それぞれを詳しく見ていきましょう。
老犬のけいれんを起こす主な病気
①てんかん

てんかんは、脳の神経細胞が過剰に興奮することで起こる病気です。
けいれん中によく見られる症状は、体が硬直する、足をバタバタさせる、よだれを垂らして泡を吹く、失禁・脱糞するといった症状です。
全身でけいれんを起こすことが一般的ですが、体の一部分のみでけいれんを起こすこともあります。
若い犬では特発性(原因不明)で起こることが多いですが、老犬では脳の病気(脳腫瘍や脳炎など)が原因で起こることが多いです。
てんかんでのけいれんは数秒〜数分でおさまることが多いですが、10分以上続く場合や、何度も繰り返す場合はすぐに動物病院を受診しましょう。
②低血糖

血糖値が下がりすぎると、脳に十分なエネルギーが届かず、けいれんが起こることがあります。
老犬では、肝臓の腫瘍やインスリンの過剰投与などが原因になることがあります。
少量の砂糖水を口の中に塗ることで一時的に回復することもありますが、自己判断は危険です。
必ず動物病院で血糖値を確認しましょう。
③脳腫瘍

脳腫瘍は、老犬で起こるけいれんの原因としてよくあるものの一つです。
脳にできた腫瘍が神経を圧迫し、けいれんを引き起こします。
脳腫瘍は初期では何も症状が見られないことも多く、進行してから徘徊などの行動変化、意識障害、頻繁なけいれんが見られることが多いです。
脳腫瘍は主にMRI検査で診断され、ステロイドや抗てんかん薬による治療が中心となります。
| MRI検査とは? MRI検査とは、強力な磁石と電波を利用して、体内の臓器を撮影する検査です。 脳は、硬い骨である「頭蓋骨」に囲まれているため、一般的な検査では異常を見つけることが難しい部位です。 MRIを使えば、骨に囲まれていても検査することが可能です。 しかし、犬においては基本的には全身麻酔で行う検査であり、費用も高額であることから、必ずしも常に行われる検査ではありません。 |
④脳炎

脳炎は、感染や免疫の異常によって脳に炎症が起こる病気です。
けいれんのほか、眼振(目が左右に細かく動く)や歩様の異常、発熱などさまざまな症状が見られます。
脳炎は主にMRI検査で診断され、ステロイドなどの免疫抑制剤や抗てんかん薬による治療が中心となります。
⑤尿毒症

尿毒症は、体内に尿毒素と呼ばれる老廃物が溜まり、脳に悪影響を及ぼす病気です。
体内に尿毒素が溜まると、意識障害やけいれん、嘔吐、よだれなどの症状が出ることがあります。
尿毒症は主に慢性腎不全の犬で多く起こります。
けいれんが起こる段階では、慢性腎不全が進行していることが多いです。
尿毒症の治療は、点滴による老廃物の除去や抗けいれん薬が中心となります。
| 慢性腎不全とは? 慢性腎不全(慢性腎臓病)とは、老犬でよく見られる病気で、加齢とともに腎臓の機能が低下する病気です。 腎臓は本来、体内の老廃物を濃縮し尿として排泄する機能を持っています。 その機能が低下することで、体内に老廃物が溜まってしまう病気です。 |
⑥高アンモニア血症

アンモニアは本来、肝臓という臓器で分解され無毒化されます。
しかし、老犬になり肝臓の機能が低下すると、アンモニアが体内に溜まってしまいます。
その結果、高アンモニア血症を起こし、脳に影響を与えけいれんが起こります。
高アンモニア血症の治療は、肝臓の働きを助ける薬や、腸内環境を整えてアンモニアの吸収を減らす処置を行うのが一般的です。
⑦心臓疾患

心臓は、全身に血液を送り出す役割を担っています。
心臓の病気が原因で全身にうまく血液を送れないと、脳が一時的に酸素不足となり、失神やけいれんが起こることがあります。
特に僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病を持つ老犬では注意が必要です。
| 僧帽弁閉鎖不全症とは? 心臓には4つの部屋があり、それぞれは血液の逆流を防ぐ「弁」で仕切られています。 その弁の中でも「僧帽弁」という弁が、加齢とともにきちんと閉じなくなることで起こる病気が「僧帽弁閉鎖不全症」です。 血液をスムーズに全身に送り出すことができなくなり、全身への酸素の運搬が滞ってしまう病気です。 |
けいれんが起きたときの対応方法

ここまでは、老犬でけいれんが起こる原因について解説しました。
では、実際に老犬がけいれんを起こしたときはどのように対応すればよいのでしょうか?
老犬がけいれんを起こしたら、まずは落ち着いて安全を確保することが大切です。
- 体を押さえつけず、近くの家具や段差を避ける
- よだれや嘔吐物で窒息しないよう、横向きに寝かせる
- 動画で発作の様子を記録しておく
- 時間を計り、長時間けいれんが続く場合はすぐに病院へ連絡する
また、けいれん中に口の中に手を入れたり、薬を飲ませたり、無理に体勢を変えたりするのは逆に危険です。
咬まれたり誤嚥したりする恐れがありますので、注意しましょう。
けいれんが起きたときの受診の目安

老犬がけいれんを起こしたら、すぐ動物病院に連れていくべきか悩んでしまいますよね。
次のような場合は、すぐに動物病院を受診することが推奨されますので、ひとつの参考にしてください。
- 発作が10分以上続く
- 1日に何度も発作を起こす
- いつも通りの体調に戻らない
- 意識が戻らない
- 初めてのけいれんである
- 心臓や腎臓の病気がある
夜間や休日であっても、緊急性が高い場合は救急病院への受診をためらわないようにしましょう。
老犬のけいれんでの診断と治療

老犬がけいれんを起こして動物病院を受診した場合、どのような診察が行われるのでしょうか?
まず診察では、けいれんの様子を知るために問診が行われます。
けいれんが起きた時間や頻度、動画を含めたけいれんの様子、ここ最近の体調などを詳しく獣医師に伝えましょう。
その後、一般的には以下のような検査が行われます。
- 血液検査:肝臓・腎臓の数値、血糖値、アンモニアの数値などの測定
- レントゲン・超音波検査:心臓やお腹の臓器の評価
- MRI検査:脳腫瘍や脳炎の有無を確認
けいれんの治療はその原因により異なりますが、抗けいれん薬で発作を抑えることが一般的です。
また、低血糖や慢性腎不全、僧帽弁閉鎖不全症などが原因の場合は、それらの治療を並行して行う必要があります。
まとめ|けいれんを見たら落ち着いて対応を

老犬のけいれんは、脳の異常だけでなく、肝臓・腎臓・心臓など全身の病気が関係していることも少なくありません。
冷静に対応し、早めに獣医師へ相談することが大切です。
早期に発見することで、愛犬に負担の少ない治療が選択できます。
そのためには、もしけいれんが起きたときにどうすればよいか、予め知っておきましょう。


この記事へのコメントはありません。