老犬の腎不全とは?初期症状・治療・食事管理を獣医師が徹底解説
シニア期に入った愛犬が、急に元気をなくしたり、食欲が落ちたりすると、とても心配になりますよね。
そんな愛犬の様子を見ていると、
「もう歳だから仕方ないのかな?」
「最近痩せてきた気がする」
「動物病院に連れて行った方がいいのかな?」
と不安になると思います。
もしかしたらそれは、「腎不全(じんふぜん)」が起きているサインかもしれません。
腎臓は、体の老廃物を尿として排出する臓器で、その働きが低下するとさまざまな症状が現れます。
本記事では、老犬の腎不全の症状や診断、治療方法、食事管理について獣医師がわかりやすく解説します。
愛犬がもし腎不全と伝えられた際に、どのようなケアをすればよいか、理解を深めましょう。
老犬の腎不全とは?腎機能が低下した状態

まず「腎臓」とは、血液をろ過して、尿を作るとともに血液中の老廃物を体外へ排出する臓器です。
体内で左右に1つずつあり、一度ダメージを受けると再生しにくい臓器と言われています。
その腎臓の機能が低下することを「腎不全」と呼びます。
腎不全は、犬の三大死因のひとつと言われるほど、老犬に多く見られる病気です。
犬の腎不全は「急性腎障害」と「慢性腎臓病」の2つに分けられ、特に老犬でよく見られるのは「慢性腎臓病」です。
今回は、この「慢性腎臓病」について解説します。
老犬の腎不全の症状

慢性腎臓病の初期は、目立った症状が出にくいのが特徴です。
腎臓の働きが低下すると、老廃物をうまく排出できなくなり、体に毒素(尿毒素)がたまります。
そうすることで、以下のような症状が引き起こされます。
- 水をよく飲む
- 尿の量が増える
- 食欲が落ちる
- 体重が減る
- 毛づやが悪くなる
- 元気がなくなる
- 寝ている時間が増える
- 嘔吐や下痢を繰り返す
- 口臭が強くなる
- 痙攣(けいれん)を起こす
- 歯肉や舌が白っぽくなる
特に「最近やたらと水を飲む」「トイレが増えた」と感じたら、早めに動物病院で血液検査を受けることをおすすめします。
老犬の腎不全の診断方法

では、実際に動物病院を受診したら、どのような検査が行われるのでしょうか?
慢性腎臓病の診断では、一般的に以下のような検査を行います。
①血液検査

血液検査は、BUN(尿素窒素)やCRE(クレアチニン)、SDMAなどの腎臓の数値を測定します。
それに加えて、肝臓の数値やタンパク質、電解質などの一般的な全身の血液検査も行われます。
血液検査の結果をもとにステージ分類を行い、そのステージに応じて適切な治療を選ぶことが一般的です。
②尿検査

尿検査は、尿の濃さ(比重)やたんぱく尿の有無を調べるために行われます。
同時に、尿での感染がないか、結晶が出ていないかなども確認することができます。
③超音波検査

超音波検査は、腎臓の形やサイズ、内部構造を調べ、腎臓の状態や原因を確認する検査です。
一般的に慢性腎臓病では、腎臓の構造が崩れ、小さくなっていることが多いです。
また現在、犬の慢性腎臓病においては、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)からステージ分類と、ステージごとの治療がガイドラインとして提唱されています。
【IRISのステージ分類】
| ステージ1 | ステージ2 | ステージ3 | ステージ4 | |
| CRE(mg/dL) | <1.4 | 1.4~2.8 | 2.9~5.0 | >5.0 |
| SDMA(μg/dL) | <1.8 | 18~35 | 35~54 | >54 |
| UPC比 | 非蛋白尿<0.2 境界的な蛋白尿0.2~0.5 蛋白尿>0.5 | |||
| 収縮期血圧(mmHg) | 正常血圧<140 前高血圧140~159 高血圧160~179 重度の高血圧≧180 | |||
老犬の腎不全の治療法

ここまでは、犬の慢性腎臓病の病態や診断について解説しました。
では、実際に慢性腎臓病と診断された場合、どのような治療を行うのでしょうか?
多くは、上述のステージ分類に基づいた治療を行うことが一般的です。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
①ステージ1

慢性腎臓病のステージ1で行われる治療は、
- 腎臓に負担のある薬を中止する
- 脱水や結石、感染への治療をする
- 新鮮な水を常に飲めるようにする
- 定期的な血液検査を行う
- 原因と併発疾患の特定と治療を行う
といったものが挙げられます。
原因や併発疾患として、高血圧や蛋白尿、高リン血症がある場合は、腎臓病用の療法食やサプリメントを使うことがあります。
私の経験上、健康診断でステージ1と診断し、適切なケアを続けた犬は余命も長くなる傾向があると思います。
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高血圧とは? |
②ステージ2

慢性腎臓病のステージ2の治療は、上述のステージ1の治療と大きく変わりませんが、食事に注意する必要があります。
このステージからは、腎臓病用の療法食を使用することが推奨されています。
腎臓病用の療法食は、概ねタンパク質が制限されており、リンなどのミネラルが調節されています。
フードの他、おやつやトッピングについても、腎臓によいものを使ってあげましょう。
腎臓病用の療法食は嗜好性が低い場合が多いので、ドライフードを食べてくれない場合は、腎臓病用のウエットフードを追加してあげると食いつきが良くなります。
また、このステージになると、余命は平均1年から1.5年程度と言われています。
③ステージ3

このステージになると、点滴による治療を検討する必要が出てきます。
多くは週に2回程度の皮下点滴を通院で行うことが多いです。
また、貧血が進行することも多く、定期的に貧血の数値を確認し、造血ホルモン(エリスロポエチン)の注射を行う必要があります。
ステージ3の余命は、約1年とされています。
④ステージ4

このステージは、いわゆる末期の状態で、腎機能がほとんど損なわれている状態です。
点滴を通院から入院に変更したり、強制給餌を行ったりなど、ステージ3の治療を強化する必要があります。
ステージ4の余命は約数ヶ月と言われており、私の経験でも治療が難しかった犬も多かったのが実際です。
老犬の慢性腎臓病に使うサプリメント

老犬の慢性腎臓病には、リンや毒素を吸着する目的で、サプリメントが使われることがあります。
よく使われるサプリメント成分としては、
- 活性炭
- 炭酸カルシム
- 炭酸マグネシウム
- キトサン
- クエン酸鉄
などが挙げられ、私自身もよく使用します。
老犬におすすめの食事の工夫

慢性腎臓病の老犬では、食欲が低下し、フードを食べなくなることが大きな課題です。
愛犬がごはんを食べないと心配になりますよね。
特に腎臓病用の療法食は嗜好性が低いことが多いので、より悩んでしまいます。
以下のような工夫で、少しでもおいしく食べてもらえるようにしましょう。
- 温めて香りを立たせる
- ウェットタイプやムース状フードを選ぶ
- 好物を少量トッピングする(少量のゆでささみや野菜など)
- 魚ベースの療法食を使う
もし手作り食を与える場合は、リンを多く含む食材(肉や小魚、乳製品、豆類など)を控えることが大切です。
また、カリウムを多く含む食材(いも類、果実類、一部の野菜など)やナトリウムを多く含む食材も控えましょう。
完全手作り食で栄養バランスを保つのは難しいため、腎臓病用の療法食にトッピングする程度の手作り食がおすすめです。
まとめ|腎不全は早期発見と早期治療が大切

犬の慢性腎臓病は、老犬で特に多い病気のひとつです。
初期では気づきにくく、症状が出たころには進行していることも少なくありません。
そのため、定期的な健康診断で、腎臓の異常を早めに見つけることが何より重要です。
そして、診断を受けた後は、治療の他にも毎日の食事管理やサプリメントでのケアも大切です。
愛犬に無理のない治療を組み合わせ、できるだけ穏やかな時間を過ごせるようサポートしてあげましょう。


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