老犬の口臭がひどい…考えられる病気と自宅ケアを獣医師が紹介
最近では、3歳以上の犬の約80%以上がお口のトラブルを抱えていると言われています。
「最近、愛犬の口のにおいが気になる」
「硬いものを噛みにくそうにしている」
「歯磨きをしていたら血が出た」
そんな変化に気づいていませんか?
もしかしたらそれは、お口のトラブルが原因かもしれません。
また、老犬の口臭の原因は口の中だけでなく、内臓の病気が隠れている場合もあります。
この記事では、老犬の口臭がひどくなる主な原因や考えられる病気、治療法、自宅でできる口臭ケアの方法を獣医師が解説します。
老犬の口臭がひどくなる主な原因

犬は年齢を重ねると、さまざまな理由で口臭が強くなります。
単に老犬だからと思われがちですが、実際には以下のような要因が関係しています。
- 歯垢や歯石の蓄積
- 歯周病の進行
- 唾液の減少(ドライマウス)
- 口腔内の腫瘍
- 内臓疾患
そのため、見た目や臭いの強さだけで自己判断せず、原因を特定することが大切です。
ここからは、それぞれを詳しく見ていきましょう。
老犬の口臭の原因となる病気

老犬の口臭の原因としてよく見られるのは、以下のような病気です。
①歯周病

犬の口臭の原因で最も多いのが歯周病です。
歯周病は、歯の表面に付着した歯垢・歯石内の細菌が歯肉に炎症を起こし、歯槽骨(歯を支える骨)を溶かしてしまう病気です。
多くは年齢とともに歯垢・歯石が増えていくことが原因で、日々のデンタルケアが不十分だと起こりやすいと言われています。
歯周病が進行すると、以下のような症状がみられます。
- 口臭が強くなる
- 歯肉が赤くなる
- 歯肉から出血する
- 歯がぐらつく、抜ける
- よだれが増える
- 食べにくそうにする、痛がる
また、歯周病の細菌が血液を通じて全身に回ると、心臓や腎臓などの臓器にも悪影響を及ぼすことがあります。
歯周病を単なるお口の問題として放置するのは危険です。
②口腔内腫瘍

老犬では、口腔内腫瘍(口の中のがん)も口臭の原因として一般的です。
腫瘍が大きくなると壊死した組織や出血が起こり、独特の腐敗臭が生じます。
代表的な腫瘍の種類として、
- 悪性黒色腫(メラノーマ)
- 扁平上皮癌
- 線維肉腫
といったものが挙げられます。
私自身も、診察時に口臭の原因を歯周病と考えていたところ、実際は悪性腫瘍だったというケースを経験したことがあります。
③慢性腎臓病

慢性腎臓病は、加齢とともに腎臓の機能が低下する病気です。
腎臓病は、犬の三大死因のひとつと言われるほど、老犬に多く見られる病気です。
慢性腎臓病が起こると、体内の老廃物がうまく排泄できなくなることで、尿毒症を引き起こします。
その結果、口から「尿毒症臭(アンモニア臭)」のような独特なにおいが発せられることがあります。
このにおいが発せられるときは、腎臓病がかなり進行している場合が多いです。
| 腎臓とは? 腎臓とは、血液をろ過して尿を作るとともに、血液中の老廃物を体外へ排出する臓器です。 体内で左右に1つずつあり、一度ダメージを受けると再生しにくい臓器と言われています。 |
④糖尿病

糖尿病とは、体内で血糖値を下げる「インスリン」というホルモンが上手く働かず、細胞が糖(グルコース)を利用できなくなる病気です。
糖を利用できなくなった細胞は、代わりに「脂肪」を分解してエネルギーを得ようとし、その結果、体内で「ケトン体」が多く作られます。
このケトン体が体内に多く存在しているときも、口から「ケトン臭」のような独特のにおいが発せられることがあります。
このにおいが発せられるときは、糖尿病がかなり進行している場合が多いです。
| ケトン体とは? ケトン体は、アセトン、β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸という物質の総称です。 健康な犬の体中でも、脂肪から作られエネルギー源として利用されていますが、その量は多くありません。 |
口臭の原因となる病気の治療法

ここまでは老犬の口臭の原因となる病気について解説しました。
では、実際に口臭の原因となる病気が見つかった場合、どのような治療を行うのでしょうか?
原因となる病気が見つかった場合、多くは口臭のケアをするだけでは口臭は改善せず、根本的な治療が必要となります。
それぞれの病気の代表的な治療法を見ていきましょう。
①歯周病の治療

歯周病の治療には、全身麻酔下での歯石除去(スケーリング)を行うのが一般的です。
歯石を取り除き、歯肉の炎症を改善させ、口臭の元を治療します。
歯周病が重度の場合は、ぐらついた歯を抜歯することもあります。
歯石除去の後は、再度歯周病が起こらないように、毎日のデンタルケアが欠かせません。
②口腔内腫瘍の治療

口腔内腫瘍の治療は、その種類や進行度(ステージ)に応じて、治療法が選択されます。
現在、腫瘍に対して行われる一般的な治療は、
- 外科手術(腫瘍を切除して取り除く)
- 放射線治療(手術が難しい部位にできた腫瘍に行う)
- 抗がん剤治療(全身的な進行を抑えるために行う)
が中心となっています。
また、口腔内腫瘍は悪性であることが多く、進行が早いことが多いため、早期発見・早期治療が重要です。
③慢性腎臓病の治療

慢性腎臓病の治療は、国際的なステージ分類に基づいて行われることが一般的です。
具体的な治療内容は、
- 点滴による治療
- 腎臓病用の療法食による食事療法
- サプリメントによるサポート
- 併発疾患の治療
といったものが挙げられます。
④糖尿病の治療

犬の糖尿病の治療は、主に自宅でのインスリンの注射が中心となります。
重度の糖尿病では、初期治療は入院で行われることも多いです。
自宅でできる老犬の口臭ケア

ここまでは、老犬の口臭の原因となる病気やその治療法について解説しました。
特に歯周病は、動物病院での治療が終了した後は、自宅でのデンタルケアが再発予防にとても重要です。
では、自宅ではどのようにデンタルケアを行ったら良いのでしょうか?
①口を触るトレーニングから始める

デンタルケアにおいて、最も効果的なケアは歯ブラシによる歯磨きです。
しかし、多くの犬は歯ブラシでのケアを嫌がります。
そんなときは、まずは口や歯を触るトレーニングから始めましょう。
「歯磨き=嫌なこと」にならないよう、少しずつ慣らしていくのがコツです。
最初はデンタルジェルや好きなおやつを指に塗って行うとやりやすいでしょう。
口や歯を触られることを嫌がらなくなったら、デンタルシートなどのケアからゆっくり始めてみてください。
②デンタルガムやサプリメントを活用する

なかなか口を触るのも難しい犬に関しては、噛むことで歯垢を落とすデンタルガムや、口内環境を整えるサプリメントも有効です。
ただし、硬すぎるガムは歯を傷めることがあるため、老犬には柔らかめのタイプを選びましょう。
口内環境を整えるサプリメントも、フードに振りかけるパウダータイプやジェルタイプ、おやつタイプなどさまざまな製品が販売されています。
愛犬に合った商品を探してあげましょう。
まとめ|日常のケアが健康な口を守る

老犬の口臭は、加齢による変化だけでなく、歯周病や腫瘍、内臓疾患といった深刻な病気のサインであることも少なくありません。
歯周病は放置すると、口以外の全身の臓器にも悪影響を及ぼす可能性があります。
「年を取ったから仕方ない」と思わず、日々の口内の観察とデンタルケアで、愛犬の口と体の健康を守ることが大切です。
病気の早期発見が、治療の負担を減らし、愛犬が長く快適に過ごせるようにサポートすることにつながります。
小さな変化を見逃さず、気になることがあれば早めに獣医師に相談しましょう。


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