老犬の脱水症状の初期サインとは?皮膚と歯ぐきで見分ける方法と受診の目安

COLUMN

夏の暑い日なのに、老犬期に入った愛犬の水の器がほとんど減っていない……。

そんな光景に胸がざわついた経験はありませんか?

「あまり動かないから飲まないだけかな」
「でも、脱水症状だったら手遅れになるかもしれない……」

私は20年以上犬と暮らして5匹を飼育し3匹を看取ってきました。

だからこそ、水を飲まない愛犬を前にした無力感が痛いほど分かります。

同じ後悔を繰り返したくない一心で、JKC愛犬飼育管理士の資格を取得しました。

結論からお伝えすると、老犬の脱水症状で最初に確認したいのは歯ぐきの乾き具合と、おしっこの量や色の変化です。

よく知られる「皮膚をつまむ方法」もありますが、老犬は健康でも皮膚が戻りにくいため、それだけで判断するのは危険といえます。

この記事では、老犬の脱水症状の見分け方から自宅でできる工夫、受診の目安までを解説します。

読み終える頃には、愛犬の小さな変化に早く気づけるようになるでしょう。

老犬の脱水症状の初期サインとは?皮膚と歯ぐきで見分ける方法

老犬の脱水は、ぐったりする前に気づけるかが分かれ道になります。

まずは自宅で確認できる3つのチェック方法を見ていきましょう。

老犬の脱水症状の見分け方は首の皮膚をつまむチェック

脱水チェックとして知られるのが、首の後ろの皮膚をつまむ方法です。

  1. 肩甲骨あたりの皮膚をつまみ上げ、離してから戻るまでの時間を見る
  2. すぐ戻れば正常で、テントのように盛り上がったままなら脱水の疑いがある

ただし、老犬は脱水していなくても皮膚の戻りが遅くなることがある点に注意が必要です。

Merck獣医マニュアルでは、やせた動物や高齢の動物は皮膚のコラーゲンなどが代謝されるため、水分が足りていても皮膚の戻りが悪く、目がくぼんで見えることがあると解説されています(※1)。

AAHA(米国動物病院協会)の輸液療法ガイドラインでも、臨床所見と脱水の程度の相関にはばらつきがあり、推定に過ぎないと明記されています(※2)。

皮膚のチェックはきっかけとして使い、歯ぐきや尿のサインと合わせて判断しましょう。

※1出典:Merck獣医マニュアル「Fluid Resuscitation Plan」
※2出典:2024 AAHA輸液療法ガイドライン

歯ぐきが乾いてネバつくのは脱水症状のサイン

皮膚よりも脱水を反映しやすいのが「口の中の粘膜」です。

健康な歯ぐきはしっとり滑らかですが、脱水が進むと乾いてネバつきます。

Merck獣医マニュアルによると、脱水の程度と口の中の状態には以下の関係があります(※)。

脱水の程度 見られる主な変化
4〜5% 粘膜がやや乾く。皮膚の戻りは正常
6〜7% 粘膜が乾き、皮膚の戻りが少し遅くなる
8〜10% 皮膚の戻りが明らかに悪い。目がくぼみ、脈が速く弱い
12%以上 粘膜が非常に乾き、意識がもうろうとすることもある

あわせて見たいのが、歯ぐきを押して色が戻るまでの時間です。

上唇をめくって歯ぐきを白くなるまで押し、離してからピンク色に戻る時間を数えます。

通常は1〜2秒で戻りますが、2秒以上かかる場合は脱水や血圧低下の可能性があります。

なお、腎臓病の犬は脱水がなくても口が乾くことがあるため、獣医師に相談すると安心です。

※出典:Merck獣医マニュアル「Fluid Resuscitation Plan」

尿の色や目のくぼみも老犬の脱水症状の初期症状

毎日のトイレ掃除は脱水症状を見つける絶好のチャンスです。

水分が不足すると体は尿を濃縮するため、おしっこの色が濃くなり量や回数が減っていきます。

また、目がくぼんで見えたり、鼻の水分がなくなったりするのもサインの一つです。

【生活の中で気づける脱水のサイン】

  • おしっこの色が濃く、量や回数が減っている
  • 目が落ちくぼんで見え、表情に力がない
  • 鼻の頭が乾いてカサついている
  • 呼んでも反応が鈍く、ぐったりしている

私が見送った愛犬も夏に尿の色が濃い日が続き、もっと早く獣医師に相談すればよかったと今も感じています。

ただし目のくぼみも皮膚と同じで、老犬では脱水がなくても目立つことがあります。

ひとつのサインで判断せず、複数の変化が重なっていないか確認しましょう。

老犬が脱水症状になりやすい2つの原因

なぜ若い頃は平気だった愛犬が、老犬になると脱水しやすくなるのでしょうか。

続いては、老犬が脱水症状を起こしやすくなる原因について解説します。

原因1.加齢と足腰の衰えで水を飲む量が減る

筋肉は水分を蓄える貯水タンクの役割を担っており、加齢で筋肉量が減るほど蓄えられる水分も少なくなります。

さらに喉の渇きを感じる感覚も鈍くなるため、老犬は「渇きを感じにくいのに水分が失われやすい」状態なのです。

加えて「飲みたくても飲めない」ケースも少なくありません。

飲めない理由 対策
頭を下げる姿勢がつらい 食器台で高さを調整する
床が滑る 動線に滑り止めマットを敷く
歯周病などで口が痛む 獣医師に口腔内を診てもらう
水飲み場が遠い 各部屋に水飲み場を増やす

「器の前まで来るのに飲まずに戻ってしまう……」と感じたら、まずは器の高さを変えてみてください。

原因2.腎臓病や嘔吐・下痢、熱中症で水分が失われる

脱水の背景に病気が隠れているケースもあり、なかでも注意したいのが腎臓病です。

Merck獣医マニュアルでは、腎機能低下で最も早く現れる症状は多飲多尿であり、尿を濃縮して水分を保つ能力が失われていくと解説されています(※)。

たくさん飲んでいても、それ以上に尿として出ていくため脱水が進むことがあるのです。

ほかに嘔吐や下痢は水分と電解質を急速に失わせ、熱中症は短時間で脱水を進めます。

これらが疑われる場合は、加齢のせいと決めつけず早めに受診しましょう。

※出典:Merck獣医マニュアル「Renal Dysfunction」

老犬の脱水症状で家でできること|自宅の水分補給と応急処置

水を飲んでくれないとき、自宅でできる工夫はいくつもあります。

今日から試せる方法と注意したい行動を紹介します。

老犬の脱水症状にポカリはいい?薄めれば少量は可

「脱水にはポカリスエットがいいの?」と疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。

人と犬では脱水の仕組みが違い、塩分や糖分が過剰になるおそれがあるため、人用の飲料をそのまま与えるのはおすすめできません。

どうしても必要なら、受診までの応急対応としてポカリスエットを3倍程度に薄めて少量与える方法があります(※)。

【人用の飲料を与えるときの注意点】

  • 3倍程度に水で薄め、少量にとどめる
  • 日常的に与えず、受診までの一時的な対応にする
  • 犬用の経口補水液があればそちらを選ぶ
  • 持病がある場合は必ず事前に獣医師へ相談する

特に持病がある老犬では、塩分や糖分が体に影響することもあるため、与える前に獣医師へ確認しておくと安心です。

以下の記事では、老犬にポカリスエットを飲ませてよいのか、さらに詳しく解説しています。

ぜひ参考にしてみてください。

※参考:いぬのきもち「犬用の経口補水液とは」

老犬にポカリスエットは飲ませていい?注意点や作り方を専門家が解説

ウェットフードやスープで食事から水分を補給する

水を飲まない老犬には、食事から水分を摂る方法が続けやすいでしょう。

ドライフードの水分量は約10%ですが、ウェットフードは約75%前後のため、置き換えるだけで摂取量を増やせます。

1日に必要な水分量の目安は体重1kgあたり40〜60mLです(体重5kgなら約200〜300mL)。

ただし食事の水分も含めた量なので、ウェットフードの犬は飲水量が少なくても問題ないこともあります。

工夫の方法 ポイント
ドライフードをふやかす 40℃程度のぬるま湯。熱すぎると栄養素が壊れる
ウェットフードを活用する 香りが立ち、食欲が落ちた老犬でも食べやすい
スープを加える 鶏のゆで汁など、塩分を加えないものを選ぶ

「カリカリだと残すのに、ふやかしたら完食してくれました」という変化も見られる可能性があります。

老犬の脱水症状の応急処置でやってはいけないこと

よかれと思った対応が、かえって負担になることもあります。

特に注意したいのが、ぐったりした老犬に無理やり水を飲ませる行為です。

意識がはっきりしない状態で水を口に入れると、気管に入って誤嚥性肺炎を起こす危険があります。

やってはいけないこと 理由
ぐったりした状態で無理に飲ませる 誤嚥性肺炎を起こすおそれがある
嘔吐や下痢が続くのに飲ませ続ける 症状が悪化することがある
氷水をかけて急激に冷やす 血管が縮み、かえって熱が逃げにくい
受診を遅らせる 重度の脱水は飲水だけでは改善しにくい

熱中症が疑われる場合は涼しい場所へ移し、常温の水をかけて風をあて、首や脇の下を冷やします。

冷やしすぎもよくないため、応急処置をしたら速やかに動物病院へ連絡しましょう。

なお、水を飲めるなら飲ませてかまいませんが、飲まないときの無理強いは不要です。

老犬の脱水症状で病院へ行く目安と点滴が必要なケース

自宅ケアには限界があり、判断を誤ると命に関わることもあります。

ここでは受診を判断する目安を確認しましょう。

老犬の脱水症状は何時間で危険?半日以上続くなら受診を

危険になるまでの時間は体格や持病、気温によって変わるため、一律の基準はありません。

そのうえで目安をお伝えすると、まったく水を飲まない状態が半日以上続く場合は、早めにかかりつけの動物病院へ相談したほうがよいでしょう。

特に嘔吐や下痢を伴う場合は水分が失われるのが速いため、半日を待たずに相談しましょう。

【判断の目安】

  • まったく水を飲まない状態が半日以上続く場合
  • 嘔吐や下痢を伴う場合
  • おしっこの回数が減っている場合
  • 食欲が落ちて元気がない場合
  • 歯ぐきがネバつく場合

老犬は体力の余裕が少なく、若い犬なら耐えられる脱水でも一気に体調を崩すことがあります。

迷った時点で電話だけでも相談しておくと安心です。

夜間や休日でもすぐに動物病院を受診すべき症状

以下の症状は緊急性が高いため、夜間や休日でも救急対応の動物病院へ連絡し、すぐに受診してください。

【すぐに受診すべき危険なサイン】

  • 呼びかけへの反応が鈍く、意識がもうろうとしている
  • 歯ぐきや舌が白っぽい、または紫色になっている
  • 立ち上がれず、横になったまま動けない
  • 嘔吐や下痢を繰り返し、水も飲めない
  • 半日以上おしっこがまったく出ていない
  • 体が熱く、パンティングが止まらない

重度の脱水は自宅で水を飲ませるだけでは改善が難しく、点滴による治療が必要です。

動物病院では、皮膚の下に輸液を入れる皮下点滴(3,000〜6,000円前後)や静脈点滴が症状に応じて行われます。

費用は動物病院ごとに異なるため、目安として捉えてください。

なお、慢性腎臓病などで継続的な輸液が必要な場合、獣医師の指導のもとで自宅での皮下点滴を提案されることもあります。

持病がある老犬の脱水症状で注意すべきポイント

持病がある老犬では、脱水への向き合い方が変わります。

持病 気をつけたいこと
腎臓病 尿を濃縮する力が落ち脱水しやすい。新鮮な水をいつでも飲める環境を複数用意する
心臓病 利尿薬を使っている場合、脱水や電解質の乱れが起こりやすい。自己判断の飲水制限は避ける
認知症 水飲み場が分からなくなったり飲む行動を忘れたりする。声かけと誘導を行う

特に注意したいのが心臓病です。

「心臓が悪いから水分は控えたほうがいい」と考える方もいますが、利尿薬を使用している犬の飲水を家庭で制限することは推奨されていません。

犬のうっ血性心不全における利尿薬治療のレビューでは、自宅での飲水制限は重い高窒素血症を招く可能性があるため推奨されないと述べられています(※)。

水分管理の方針は持病で異なるため、必ずかかりつけの獣医師の指示に従いましょう。

※出典:Upstate Veterinary Specialties「利尿薬治療のレビュー」

まとめ|老犬の脱水症状は早期発見で愛犬を守れる

老犬の脱水は、進行してからでは自宅での対応が難しくなるでしょう。

毎日の小さな変化に気づけるかが、愛犬の健康を大きく左右します。

環境省のパンフレットでも、高齢のペットが快適に暮らせるよう生活環境を整える大切さが紹介されています(※)。

【今日から始める脱水予防と見極めのポイント】

  • 皮膚をつまむチェックは目安。老犬は脱水がなくても戻りが遅いことがある
  • 歯ぐきの乾き具合とおしっこの色・量を合わせて確認する
  • 水飲み場を複数の部屋に置き、器の高さを調整する
  • 夏場は室温25℃前後、湿度50%前後を目安に保つ
  • 水を飲まない状態が半日以上続くなら早めに動物病院へ相談する
  • 意識がもうろうとしている場合は夜間でもすぐに受診する
  • 心臓病の犬に自己判断で飲水制限をしない

私自身、愛犬が高齢になってからは水を替えるたびに減り方を見る習慣をつけていました。

厳密に管理する必要はないので、まずは器の減り方を見ることから始めてみてください。

水が減っていない器を見て不安になる夜も、確認するポイントを知っていれば落ち着いて動けます。

ママさんパパさんのその気づきが、愛犬の穏やかな毎日を守る一番の力になるでしょう。

※出典:環境省「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」

大場聖也

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保有資格「JKC愛犬飼育管理士」。幼い頃から犬が大好きで、幼稚園の頃には犬の図鑑をボロボロになるまで読み込んでいた。 10歳のとき、不登校だった私を支えてく...

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