シニア犬の痴呆って?よくある症状や受診の目安、自宅でのケアを獣医師が解説
愛犬が年齢を重ね、夜泣きや徘徊、トイレの失敗などが見られるようになると、人でいう痴呆になったのではないかと心配になりますよね。
そんなとき、
「犬の痴呆ではどのような症状が見られるの?」
「痴呆に早めに気づくにはどうすればいい?」
「自宅でケアをする方法とは?」
といった疑問をお持ちではありませんか?
犬の痴呆は、獣医学では「認知機能不全症候群」と呼ばれ、近年は犬の高齢化に伴い、よく見られるようになりました。
症状は少しずつ現れることも多く、「年を取ったから仕方がない」と見過ごされていることも少なくありません。
この記事では、シニア犬の痴呆について、代表的な症状や受診の目安、自宅でできるケアを獣医師が分かりやすく解説します。
最後までお読みいただき、シニア犬の痴呆について正しい理解を深めましょう。
シニア犬の「痴呆」とは

シニア犬の痴呆は、加齢に伴って脳の働きに変化が起こり、
- 記憶や学習
- 周囲の状況を認識する能力
- 睡眠・覚醒リズム
- 社会的な反応
などに変化が生じる状態です。
これは、βアミロイドの沈着や神経細胞の減少などのさまざまな脳の変化が関係して起こると言われています。
正常なシニア犬でも、学習速度が遅くなったり、反応がゆっくりになったりすることは珍しくありません。
一方、認知機能不全症候群では、単なる老化の範囲を超えて、さまざまな行動変化が現れます。
認知機能不全症候群は、高齢になるほど発症リスクが高くなると考えられているものの、飼い主様が「年齢のせいだから」と考えて動物病院に相談しないケースも少なくありません。
シニア犬の痴呆で見られる主な症状

認知機能不全症候群の症状を整理するときに役立つのが「DISHAA」という考え方です。
DISHAAは、認知機能の低下で見られる行動変化を6つの領域に分けたものです。
DISHAAの6徴候
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一つの症状だけで認知機能の低下と判断するのではなく、複数の領域で変化が起きていないかを見ることが大切です。
ここでは、それぞれの症状を詳しく見ていきましょう。
①Disorientation(見当識障害)

見当識(けんとうしき)障害とは、「ここはどこ?」「どうすればいい?」というように、周囲の状況を把握する力が低下することを指します。
具体的な症状としては、
- 慣れている家の中で迷う
- 部屋の隅や家具の前で立ち止まる
- 狭い場所に入り込んで出られなくなる
- ドアの前で立ち尽くす
- 同じ場所を行ったり来たりする
- 家族やいつもの場所を認識しにくそうにする
といった様子が見られることがあります。
ただし、目の見えづらさや聴力の低下などでも似た行動が起こるため、「迷っているように見える=認知機能の低下」とは限らないことに注意が必要です。
②Interaction(社会的交流の変化)

社会的交流の変化として、これまで大好きだった家族やほかの犬に対する反応が変わることがあります。
たとえば、
- 飼い主に対する反応が薄くなる
- 名前を呼んでも反応しにくくなる
- 家族との触れ合いを避けるようになる
- 以前好きだった人や犬に興味を示さなくなる
- 飼い主の後を常についてくるようになる
- 以前より甘えるようになる
といった様子が挙げられます。
「シニアになって性格が変わった」と感じることもありますが、実は社会的な認識や反応の変化が背景にあることも珍しくありません。
③Sleep-wake cycle(睡眠・覚醒サイクルの変化)

睡眠サイクルの変化として代表的なのが、昼間に長時間眠っているのに、夜になると起きる「昼夜逆転」です。
そのほか、
- 夜間に落ち着かなくなる
- 夜に徘徊する
- 夜鳴きが増える
- 昼間に眠っている時間が長くなる
といった様子が見られることがあります。
ただし、夜鳴きは痛みや不安、目の見えづらさなどでも起こります。
突然夜鳴きが始まった場合は、認知機能の低下と決めつけず原因を確認することが大切です。
④House soiling(排泄・学習・記憶の変化)

学習や記憶の変化として代表的なのが、トイレの失敗です。
具体的な様子としては、
- トイレ以外の場所で排泄する
- トイレの場所が分からなくなる
- 以前覚えていたことができなくなる
- 簡単な指示に反応しにくくなる
- 新しいことを覚えにくくなる
といった変化が挙げられます。
ただし、シニア犬のトイレの失敗は認知機能の低下だけでなく、膀胱炎や腎臓病、ホルモン疾患などの病気でも起こるため、注意が必要です。
⑤Activity(活動性の変化)

認知機能が低下すると、活動量や行動パターンにも変化が現れます。
たとえば、
- 同じ場所を何度も歩く
- 目的なく家の中を歩き回る
- 一方向にぐるぐる回る
- 落ち着かず歩き続ける
- 活動量が大きく減る
といった様子が見られることも少なくありません。
ただし、活動量の低下については、関節炎などの痛みや筋力の低下が原因になっている場合もあるため、注意しましょう。
⑥Anxiety(不安の増加)

認知機能の低下によって、これまで慣れていた環境でも状況を把握しにくくなり、不安が強くなることがあります。
その結果、
- 落ち着きがなくなる
- 飼い主の後をついて回る
- 一人になると不安そうにする
- 夜になると不安が強くなる
- 理由が分からないような鳴き方をする
- 急に怖がるようになる
- 以前は平気だった場所や状況を嫌がる
といった行動が見られることがあります。
夜鳴きや徘徊などを単なる「困った行動」と捉えるのではなく、「不安を感じているのではないか」という視点で見ることも大切です。
シニア犬の行動変化=痴呆とは限らない

では、前述のような様子が見られる場合、認知機能不全症候群によるものと考えてよいのでしょうか?
実際は、認知機能不全症候群と似た症状を示す病気は多数あります。
認知機能不全症候群と間違えやすい病気のパターン
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このように、一見認知機能の低下を思わせるような症状を示す別の病気があるため、自己判断せず獣医師に相談することが大切です。
シニア犬の痴呆で早めに受診したい症状

では、シニア犬の痴呆で早めに動物病院を受診すべき症状としては、どのようなものが挙げられるのでしょうか?
現在、認知機能不全症候群では、症状が軽度なうちからケアを始めることが推奨されているため、気になる症状がある場合は一度獣医師に相談しましょう。
特に次のような様子が見られる場合は、早めの受診をおすすめします。
- 急に性格や行動が変わった
- 急に立てなくなった/歩けなくなった
- けいれんや意識がおかしい様子がある
- 食欲や元気がない
- 強い痛みや呼吸が苦しそうな様子がある
- 尿の色やにおいに変化がある
- 夜鳴きや徘徊が急激に悪化した
これらの症状は、認知機能不全症候群の可能性もあるものの、背景にそれ以外の病気が隠れている可能性も十分に考えられるため、注意が必要です。
シニア犬の痴呆に対する自宅でのケア

では、認知機能不全症候群のシニア犬に対して、自宅ではどのようなケアをすればよいのでしょうか?
自宅でのケアでは、症状そのものを無理に抑えようとするのではなく、愛犬ができるだけ安心して、安全に過ごせる環境を整えることが大切です。
具体的には、
- 生活リズムをできるだけ一定にする
- 家具や部屋の配置を大きく変えない
- 転倒や挟まる事故を防ぐ
- 昼間に適度な運動や刺激を与える
- 叱らず、安心できる声かけをする
- トイレの失敗を防ぐ
- サプリメントでケアをする
といった方法が挙げられます。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
①生活リズムをできるだけ一定にする

認知機能が低下したシニア犬では、毎日の生活パターンをできるだけ一定にすることが大切です。
食事や散歩、排泄、就寝などの時間を大きく変えず、「次に何が起こるのかを予測しやすい生活」を心がけましょう。
予測可能な日課や環境を維持することが、シニア犬の不安の軽減につながるとされています。
②家具や部屋の配置を大きく変えない

認知機能や視覚が低下すると、これまで慣れていた自宅でも、家具の位置が変わったことで戸惑うことがあります。
そのため、ベッドや食器、トイレなどは、できるだけ同じ場所に置いておきましょう。
模様替えをする必要がある場合も、一度に大きく環境を変えるのではなく、愛犬の様子を見ながら少しずつ変更することをおすすめします。
③転倒や挟まる事故を防ぐ

認知機能が低下した犬では、狭い場所に入り込んで出られなくなることが多いため、徘徊しても危険が少ない環境を作ることが重要です。
たとえば、
- 階段に入れないようにする
- 家具と家具の隙間をふさぐ
- 電気コードなどを届かない場所にする
- 家具の角など、ぶつかると危険な場所を確認する
- 段差をできるだけ減らす
などの工夫が挙げられます。
また、足腰が弱くなったシニア犬では、フローリングなどの滑りやすい床も転倒につながります。
犬が歩く場所には滑りにくいマットなどを敷き、無理なく移動できる動線を作ってあげましょう。
④昼間に適度な運動や刺激を与える

昼間に寝ている時間が長くなると、その分夜中に起きてしまい、昼夜逆転を引き起こす可能性があります。
そのため、体調や足腰の状態に合わせて、日中に適度な運動や刺激を取り入れましょう。
なお、関節や心臓などの持病がある場合は、運動量について事前に獣医師に相談しましょう。
⑤叱らず、安心できる声かけをする

認知機能不全の犬では、以前なら問題なくできていたことができなくなり、粗相や徘徊、夜鳴きなどが増えることがあります。
飼い主にとっては負担の大きい行動ですが、認知機能の低下によって起きている行動を叱っても、犬が「なぜ叱られたのか」を理解できないことがあります。
むしろ強く叱ったり、怖がらせたりすることで、不安やストレスを強めてしまう可能性があるため、愛犬が不安そうにしているときは、落ち着いた声で名前を呼んだり、そばにいて安心させたりすることを心がけましょう。
⑥トイレの失敗を防ぐ

これまでトイレを失敗しなかった犬でも、認知機能の低下によって粗相が増えることが少なくありません。
この場合、「トイレを失敗しないように教え直す」だけではなく、失敗しにくい環境を作ることがポイントです。
たとえば、
- トイレを寝床の近くに設置する
- トイレまでの移動距離を短くする
- トイレの数を増やす
- 排泄のタイミングを見ながら誘導する
- 防水シートや洗いやすいマットを利用する
といった方法が挙げられます。
また、粗相をしてしまっても、叱らずに静かに片付けましょう。
⑦サプリメントでケアをする

認知機能の低下が見られるシニア犬のケアでは、環境だけでなく栄養面からのサポートも重要です。
よく用いられる成分としては、
- MCT(中鎖脂肪酸)
- オメガ3脂肪酸
- ビタミンB群、C、E
- ホスファチジルセリン
といったものが挙げられます。
そのほか、不安やストレスのケアとして、α-カソゼピンやCBD(カンナビジオール)などが用いられることもあります。
ただし、すべてのシニア犬で効果が見られるとは限らず、お薬の代替にはならない点に注意が必要です。
また、サプリメントを使用する場合は、自己判断で複数の商品を追加するのではなく、現在の健康状態や食事、服用中の薬を獣医師に伝えたうえで相談することをおすすめします。
まとめ

シニア犬の「痴呆」は、獣医学では認知機能不全症候群と呼ばれ、加齢に伴う脳の変化によって、さまざまな認知機能や行動に変化が現れる状態です。
夜鳴きや徘徊、粗相などが見られても、痛みや泌尿器、眼、脳神経疾患などが原因の場合もあるため、「年齢のせいだから」と決めつけないことが大切です。
気になる変化があれば早めに獣医師に相談するよう心がけましょう。
自宅では、生活リズムを整え安全な環境を作り、愛犬が安心して過ごせるようサポートしてあげることが大切です。
本記事を参考に、愛犬に合ったケア方法を見つけてあげましょう。















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